かつお節への「カビ付け」が考案されたのは江戸時代まで遡るといわれています。当時、かつお節の主要生産地であった土佐や薩摩から、天下の台所、大坂まで輸送する際には、自然発生するカビに悩まされていました。更に、大坂に集められたかつお節は江戸へ船で輸送しましたが、当時の船では一か月間もに及ぶことがありました。潮風や波しぶきに当たると、かつお節には当然のようにカビが発生しました。「カビが付き、それを払い落とす」ことを繰り返した結果として、かつお節の保存性が増す、風味、旨味が増してくる、だしが透明になってくるといったことが経験的にわかってきたのです。江戸時代の日本人による「食へのこだわり」が感じられます。
現代においては、焼津鰹節水産加工業協同組合が純粋培養している、「かつお節専用のカビ菌」が全国の生産者において使用されています。そのおかげもあり、生産効率は良くなってきていますが、それでも一回の「カビ付け」には数週間の日数を要するのです。
では、何故「カビ付け」にこだわるのか?その重要なメリットをまとめてみましょう。
1.かつお節の中の水分を取り除く
2.有害な微生物の繁殖を防ぎ、保存性を高める
3.カツオの旨味成分「イノシン酸」の含有率を高める
4.かつお節の脂肪成分を分解することによりだしの透明度を高める
5.かつお節の香りを良くする
6.カビ抗酸化物質を発生し、かつお節表面の酸化を防ぐ
味噌や醤油のように麹菌をつかって保存性や美味しさを得ている食材が他にもありますが、かつお節のように「カビ付け」をあえて繰り返して生産される食材は世界を見てもあまり見当たりません。数百年も前に考案された方法が現代でも引き継がれ、更に発展していることに敬意を表したいものです。