佐賀県南西部の山間にある嬉野にて、40年以上にわたり無農薬でお茶を栽培する農家があります。太田家は100年以上続いているお茶農家として、標高150~500mの山地で約10品種を栽培し、自宅にある製茶工場で製茶まで行っています。
私たちは、新茶の茶摘みが始まるこの時期に、太田裕介さんのお茶づくりを手伝わせてもらうために嬉野まで訪問しました。農薬に頼らずに、健康で美味しいお茶を育てることの大変さを感じることができましたので、このブログをとおして皆さんにも知ってもらえればと思います。
嬉野は静かな山々に囲まれ、美肌の湯として知られる人気の温泉地です。ゆっくりと時間が流れていて、町で会う人々は穏やかで親切な方ばかりです。江戸時代より海外との交流窓口であった長崎から近いこの地域は、長崎街道の宿場町として、お茶だけではなく磁器や菓子など、国内外で好まれる上質な食文化を発展させてきました。
嬉野の山間部は、昼夜の寒暖差、穏やかな風、朝霧による程よい湿り気など、お茶の栽培にとって素晴らしい環境を兼ね備えています。一方で、標高の高い傾斜地での農作業は、移動や物資の運搬も平地とは比べ物にならない労力を必要とします。先人たちが石積みを駆使して整地した農場では大型機械の導入は難しく、多くの作業が手作業となるのです。
裕介さんのお父様は、ご自身が重度の農薬中毒に倒れた経験から、農薬を多用する農業に強い疑問を抱きました。1987年より、嬉野の土地の力、茶樹の生命力を信じて、完全無農薬農法に踏み切ったのです。その当時は、無農薬農法に関する情報は非常に限られていたようで、幾多の苦労を乗り越えながらも、独自の土づくりへとたどり着きました。
そんな太田家の茶畑は、茶樹にとってだけではなく雑草にとってもパラダイスなのです。お茶摘みに入る前には雑草をしっかりと取り除く必要があるのですが、この作業は茶樹や茶葉を傷つけないよう丁寧に人の手で行われます。私たちもこの草取りを一緒に手伝わせてもらいましたが、多種多様な雑草やテントウムシなどの昆虫までが生き生きと育っている環境には驚きを隠せませんでした。草叢にはマムシも顔をのぞかせていました。この草取り自体はとっても体にこたえるのですが、様々な生き物が生き生きと共存している環境に身を置くことで心が洗われる感覚を得ることができました。
次の日は午後から雨との天気予報でしたので、朝の7時より新茶を摘む作業が行われました。横幅が10メートルもない段々畑でお茶摘みが行われ、摘まれた茶葉は手際よく集められ太田家の製茶工場へと運ばれます。摘みたての茶葉の香りは今まで嗅いだことのない不思議な香りです。お茶特有の甘さと、言葉では表現しきれないフレッシュ感を持ち合わせているのです。その香りを嗅ぐだけで気持ちがスッと落ち着きます。
案の定、お昼頃から雨脚が強くなり、午後は計画とおりに製茶工場にて製茶作業が行われました。今回は「さえみどり」という品種の一番茶を蒸製玉緑茶にする作業です。蒸すことにより生茶葉にある酵素の活性を止める工程からスタートです。太田家の蒸し工程にはこだわりが詰まっています。適度に加圧された蒸気をあてることにより、通常よりも短時間で蒸し上げるのです。これにより香り成分をより残しつつも、甘みをしっかりと引き出すことができるようです。その後は揉み、乾燥、選別などの工程が行われます。裕介さんは全ての工程において全神経を集中し、茶葉を触りながら様子を確かめな、一つひとつの工程を丁寧に行っていました。
お茶農家にとって繁忙期にあたるこの時期に快く私たちを受け入れてくれ太田家の皆様に心から感謝の意を表したいと思います。
5月より新茶の発売を行います。嬉野という土地で無農薬栽培にこだわる太田家の想いがいっぱい詰まった新茶を是非ともご賞味ください。こころもからだも穏やかになると思いますよ。